朱門優の「ある秋の卒業式と、あるいは空を見上げるアネモイと。 」のレビューです。
ある秋の卒業式と、あるいは空を見上げるアネモイと。
朱門 優
評価:★★★★★(信者補正あり)
この本は
ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。 (一迅社文庫)の続編にあたります。前作を読んでいないと全く理解できませんし、既読の場合でも復習しておくことを勧めます。朱門もあとがきで書いていましたが、まさか「あるある」に続きがあるとは思いませんでした。それどころか、終盤にシリーズのお約束の展開が確立されて、さらに続きがありそうです。
これまで「めぐり、ひとひら。」「いつか届く、~」「きっと~」「あるある1」と朱門の作品を読んできましたが、文庫本一冊という少ないテキスト量に対する密度で考えると、この「あるある2」が最も朱門らしい作品といえるかもしれません。終盤の超展開や、やさしい善意・良心の世界、名前や言葉あそびなど、朱門独特のテキストがぎっしり詰まっています。そのため、朱門慣れしていない人はついていけない、ということになるかもしれません。「あるある1」を読んで面白く感じた人でも拒絶反応を起こすかもしれません。朱門嫌いには「はぁ?」という感じでしょう。
今回もいろいろと仕掛けがありますので、帯やあらすじ、登場人物紹介などからいろいろと想像するとおもしろいと思います。読了後に読み返して伏線を発見するということもあると思います。
新キャラが二人いるので、前作からのキャラクターの活躍が相対的に減った印象はありますが、前作の内容を踏まえた会話が展開されますので、描写や書き込みが足りないという印象は少なかったです。新キャラでは姉の日黄(たちもりかつみ)の方がいろいろと予想外で面白かったです。そしてかつみに対して早くから理解をしていたいちこに吹きました。妹の日草(たちもりかや)の方はボイスをつけた方がキャラクターが活きて破壊力が増すと思いました。
前作は完結していると思ったら、今作で却って謎が増えましたが、朱門ならば加速しすぎることはあっても失速することはないでしょう。続編に期待したいと思います。