今日はエンディングテーマの『明日を描く想いの色』のレビューです。サウンドトラックにはショートバージョンが収録されているのですが、ゲームの音楽モードでフルバージョンを聞くことができます。
つい書き忘れていたのですが、今回はEDテーマ曲ということで、いつものレビューよりもネタバレ気味なのでご注意ください。
主題歌『紅葉』のレビューは
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こちら『明日を描く想いの色』
作詞・作曲・編曲:樋口秀樹
歌・コーラス:WHITE-LIPS
この曲は『きっと、澄みわたる朝色よりも、』のエンディングテーマで、前奏は弦によってサビのメロディーが提示されることで幕を開けます。便宜的にこのメロディーを"明日のテーマ"と呼ぶことにしましょう。"明日のテーマ"はサビにおいてはA majorなのですが、この冒頭ではD majorで奏でられます。このD majorという調は、主題歌の「紅葉」がD minorであることを考えると、短調に支配されていた世界が長調へと移り変わったということであり、極めて大団円的なエンディングを象徴しているといえます。
前奏を受け継いで始まるAメロでは、伴奏のシンセサイザーの分散和音がやや落ち着かない、浮ついた印象を与えます。これは、歌詞の「悪くなかった」に端的に表れているように、戸惑いや照れを感じており未知の感覚(=明日のテーマ)をまだ冷静に受け止められていないことを象徴しています。ここでの視点は誰なのかというと、歌詞から、そしてなによりゲームでのエンディングから与神ひよであると解釈できます。
再び繰り返されるAメロ(二回目)では、パーカッションが加わり曲調が落ち着きを取り戻します。ここでの歌詞が過去や原点に向けられていることから、一度幕を閉じた物語を、多少冷静さを取り戻し、改めて振り返っている心境と調和的です。
Bメロは続くサビへの移行を担当していますが、歌詞の主旨はAメロ(二回目)と似通っています。特に前半部分ではコード進行や楽器構成もAメロ(二回目)とほぼ同じなのですが、同じ主題をネガティブな面から見直すことでやや暗めの曲調となっています。続く後半部分では改めてその主題を明示し、続くサビへと向かって盛り上がりを見せます。
サビではAメロやBメロによって間接的に、婉曲的に描写がされていた"新しい世界"(明日のテーマ)を初めて真正面から捉えます。それを受け止めた心境や、その起源を省みることで少しずつ輪郭が浮かび上がっていた"新しい世界"がここで明快に示され、全体として増幅法的強調が行われています。特に最後の「もう二度と迷わない」という部分では、一つの物語を乗り越えた与神ひよの意思の強さを感じさせ、非常に印象的です。サビを迎えるにあたって調はDからAへと移調しており、"新しい世界への移行"が歌詞だけでなく、移調という形で音楽的にも明快に表現されています。
詩の内容を見れば、実際にショートバージョンがそうであるように、すでに非常に綺麗に完結しているのですが、ロングバージョンにはさらに続きがあります。ひよ視点で"新しい世界"への移行を描いた1番から、間奏を挟んで、同じ展開を若の視点で再構築する2番へと繋がるのです。
間奏ではまず『紅葉』のサビのメロディーが弦によって提示されますが、曲の調はA minorとなっており、この段階で視点が移り変わり時が遡ったことを示唆しています。後半ではトランペットが加わり、曲は一度不安定で混沌とした局面を迎えるのですが、繰り返しでは徐々に穏やかさを取り戻してD majorのAメロへと移行します。特にこの部分の展開は本編終盤の展開を象徴していると考えられ、間奏全体として若の視点で『きっと、澄みわたる朝色よりも、』の物語を振り返り、エンディングへと至ったのだと解釈できます。
若の視点で描かれる2番は、ひよの1番よりもさらに露骨に心境や出来事を綴ってゆきますが、最も象徴的なのは2番のサビの後に挿入されている若が絵を描いているところでしょう。この部分の後に再びサビへが繰り返されるのですが、その繋ぎの部分で主旋律は先に進んでいるのにベースはGのまま、溜めに溜めてからサビに移行します。このあからさまな盛り上げ方のストレートな表現が、シナリオの作風と調和的で非常に印象的です。
最後のサビでは、焦点が"個人の想い"から"みんなの絆"へと移り変わっています。そのため視点が誰であるのか考えると若でもひよでも解釈が成り立ち、あるいは偏在化したとも考えられます。この部分だけに着目しても『きっと、澄みわたる朝色よりも、』はひよげーであるという意見は表層的な上辺だけの理解であるということがわかります。曲について見れば、実は前奏も1番と2番もサビの終わりはコード進行的には偽終止という不完全な、本来ならば終わりであるのに続きがあるような終わり方をしていたのですが、曲の最後では完全終止をしています。偽終止が繰り返されたことによって溜めが生じ、その分曲の最後の完全終止が強い安定感をもっており、お約束的な美しさがあります。さらに最後の和音は第五音のEが省略されることによって、クラシックの曲のようなとても綺麗な余韻を残して幕を閉じます。この描写を含めた曲全体の綺麗さはシナリオと調和的であり、まさに『きっと、澄みわたる朝色よりも、』のフィナーレを飾るのに相応しい曲だといえるでしょう。
歌詞こんなに胸が高鳴る涙は初めてだけど
笑顔がこぼれる感じ悪くなかった
すべてが変わるほどの大きな出来事それは
あなたと出逢ったこと手をつないだこと
泣きたいほどの悲しみに立ちすくむようなときも
ひとりじゃないと知るだけでこんなにいとおしい
空っぽの手をつないで感じるあなたの温もり
そこにあるのは確かな優しさという愛の道しるべ
もう二度と迷わない
(間奏)
くすんだ色の花も朝露に濡れ輝く
寂しい夜の終わりを喜ぶように
ほんとの笑い方なんて忘れてしまったけれど
あなたといると思い出せそうな気がする
どんな綺麗な景色も最初はどれもモノクローム
この手で色がおかれて鮮やかに変わるだから私も
そのひとひらを描く
心のキャンバスに何度も何度も書き直したデッサン
あなたにもらった景色には遠く及ばなくて
誰かのために誰かが差し出すその手はいつだって
人の想いの数だけ彩られてるたくさんの色に
私の色は…lalalalalalala...
lalalalala...
この胸にさく花の彩りも
私の描く未来